「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第146話
最終話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<最強なんて意味ないよね>



 村を作る場所がバハルス帝国内ではなく私たちの土地として新しく開拓される土地に決まったと言う事で、大事な事を決める時にはいつも行われるイングウェンザー城首脳会議が地下6階層にあるいつもの会議室で開かれていた。

「私たちにとって、初めての領地開発になるのよね。なら自重しなくてもいいかな」

「えっ、いいの?」

 私の呟きにまるんが反応する。

 そうよね、今までは私が周りに自重するようにって言い続けてきたのに、いきなりこんな事を言い出したらこんな反応が返ってきてもおかしくない。
 でも今回は都市国家イングウェンザーがこの地で開く初めての村なんだから、中途半端なものを作りたくは無いのよね。
 だから自重と言う言葉はちょっと横において、私たちが作る事ができる最高の村を作ってしまおうって思ってるんだ。

「と言う事は畑や牧場、果樹園なんかだけじゃなく、建物もみんなうち基準のクリエイトマジックで作っちゃってもいいのかなぁ?」

「えっと、流石にそれはダメ。この世界の人たちが住むんだから、家とかはこの世界基準で作るわよ。でも、その為の整地は魔法でやるし、建物に使う木材やレンガなんかの建材は全部城にいる職人たちに作らせるし、建築もゴーレムにやらせて一気に建てちゃうつもり。そのゴーレムの作成と制御に関してはあいしゃに頑張ってもらうからね」

「うん! がんばるよ」

 あいしゃの元気のいい返事に、私は笑顔を浮かべて頷いた。

「それじゃあ、あたしは? 畑や果樹園を作るのならあたしの力も要るんでしょ?」

「そうね、あやめには植物の精霊を使って城の果樹園から色々な果物の木を移植してもらわないといけないし、畑を作ったり村の中の整地をしたりするのには土の上位精霊であるダオ、ザイルの力が必要だからね。かなり働いてもらうわよ」

「解ったわ。あたしに全部任せて!」

 あやめはそう言うと拳で胸を叩く。
 う〜ん、ちょっと張り切りすぎだなぁ、これは農業担当のユカリをつけた方がいいかな?

「それで私は何をしたらいいの?」

「あるさん、私も何かしたい」

 そんな張り切る二人を見てシャイナとまるんも声をあげる。
 大丈夫よあせらなくっても、ちゃんと二人にも役目があるから。

「シャイナにはエントに行って貰うわ」

「え〜、新しい村を作る仕事じゃないの?」

 不満があるのは解るわよ。
 でも、こっちもこれからの事を考えると物凄く重要なのよね。

「新しい村の仕事じゃなくて悪いけど、あの村の牧場を開く仕事も大事だもの。何せあそこが稼動しないと乳製品やお肉が手に入らないでしょ。そうなるとロクシー様から頼まれているレストランや甘味処の全国展開なんて夢のまた夢ですもの。新しい村ができてもエントの村の牧場が軌道に乗らないと全てが台無しになる、物凄く大事な仕事なのよ」

「そっか、解ったよ。でもそんな仕事、私にできるかな?」

「そこは大丈夫。ミシェルをつけるつもりだし、ある程度形ができたら追加でボウドアからリーフも応援を送るつもりだから」

 エントにはシミズくんとその眷族がいるから牧草関係は問題なく育ってるだろうし、ミシェルがいれば牧場を開くまでは問題ないと思うのよね。
 そしてそこに今、ボウドアの村で実際に実験農場を任せているリーフが加われば失敗しようが無いわ。

 えっ、ならシャイナは要らないんじゃないかって? そんな事は無いわよ。
 NPCたちにとって私たちプレイヤーキャラクターがいるというのはそれだけで励みになるもの。
 いるといないとでは、その場の雰囲気が全然違うものになると思うわ。

「それでまるんだけど、ある意味一番大変かも」

「なにをするの? 何でも言って」

「それはね、ゲートが使える子たちを率いて城で作った建材を村に運んだり、あやめが移植する城の果樹園にある果物の木を運ぶ仕事を頼むわ。ただ本当に何度も色々な所にゲートを開く事になるから、NPCたちのMPにはいつも気をつけてね。まるんが一緒にいるとあの子達、頑張りすぎちゃうだろうから」

「うん、解った。わたしがちゃんと目を光らせるから大丈夫」

 そう言ってまるんは胸をそらした。
 所謂エッヘンのポーズって奴ね。
 そしてそれを見たシャイナがすかさず飛んでいくとその場で抱き上げて、可愛い可愛いと言いながら頬ずりを始める。

「や〜め〜ろぉ〜! わたしは子供じゃないって、いつも言ってるでしょ!」

「でも可愛いのには変わらないからいいのよ」

 まぁこれはいつもの事だから放って置こう。

「で俺はあれか? 村で使う魔道具の作成って所か」

「アルフィスは流石に解ってるわね。ええそうよ。果樹園や畑を開く以上害虫よけの魔道具は必要だし、一応ため池のようなものはクリエイトマジックで作るつもりではいるけど川も湖も無い場所に村を作るんだから水が湧き出る大樽は当然複数必要になる。それに城の職人たちが建材を作るために動くことになるから、それの監督もしてもらわないといけないのよね。だからかなり大変よ。できる?」

「問題ない」

 アルフィスはただ一言そう言って、頷くだけだった。

 ホントキザと言うかクールというか、なんで私の分身なのにこんな感じなんだろうか? それともあれか、もしかして現実世界にいた頃の私の中にこうなりたいって願望があったのかな? う〜ん、今の私では想像もできないや。

「それでアルフィン様。私たちには、どのような役目を?」

 最後にメルヴァ、ギャリソン、セルニアの3人が私に自分たちの仕事を聞いてきたので、各自に役割を振って行く。

「メルヴァは城の維持管理。いつもと変わらないと言えば変わらないけど、多くの子が今までと違った配置で動くから思わぬところで問題が発生することが考えられるわ。なれた仕事だからと言って気を抜かないでね」

「承知しました」

「次に店長。新しい村に来る人たちは元兵士と言う事で男性の方が圧倒的に多いのよ。だからある程度生活が落ち着くまでは食事なんかに不自由すると思うのよね。だからその人たちが食事をとれる料理屋を何店舗か開く準備をしてもらうわ。何せ兵士だけでも1000人くらいいるらしいもの。中には家族を連れてきたり恋人を連れてきたりしてる人もいるだろうけど、多分その殆どの食事を賄わなければいけなくなるだろうから、かなりの数よ。お願いできる?」

「私の本来の役職はイングウェンザー城地上階層統括&コンセプトパーティーホール責任者権店長ですよ? その分野は私の本職、任せてください!」

「そして最後にギャリソン。あなたは私と一緒にイーノックカウに行って貰うわ。私はそこでフランセン伯爵と難民状態の元帝国兵士たちについての話し合いをしなければいけないから、その手伝いをして頂戴」

「畏まりました、アルフィン様」

 こうして私たち誓いの金槌の幹部、いえ、都市国家イングウェンザーの幹部の仕事は決まった。
 後は各自がきちんと自分の役割を果たし、無事開村の日を迎えるべくがんばるだけね。

「ところであるさん、新しい村はどこに作るつもりなの? やっぱり城の近く?」

「違うわよ。そんな所に作ったらバハルス帝国との行き来も大変になっちゃうじゃない。だから私としてはイングウェンザー城とボウドアの間に通した街道の中間辺りがいいんじゃないかな? って思ってるんだ。確かあの辺りにも将来商隊が行き来するようになった時、楽に野営ができるようにって開けた場所を用意してたでしょ? あそこを拡張して村にするつもり」

「ああ、あそこか」

 あそこならボウドアの村から15キロちょっとの位置にあるし、何よりすでに街道が整備されてるから難民の移動もスムーズにできると思うからね。

「それじゃあみんな、色々と大変な事もあるけど、力を合わせて乗り切りましょう」

「「「「「「おぉ〜!」」」」」」

 こうして動き出した私たちはそれぞれの場所で頑張った。
 そりゃあ色々と問題は起こったわよ。
 でも今回は自重と言う事場をどこかに置いてきての作業なんだから、その全てを力技でねじ伏せたんだ。

 ただ、

「ねぇ、なぜエントの村と新しく開く村、その両方に酒造用の工場ができてるのかな?」

 何故かまったく予定になかった施設ができあがったという報告を受けた時は、私も流石に開いた口が塞がらなかったわ。

「だってバハルス帝国の皇帝からお酒を作って輸出して欲しいってアルフィンが言われてたから、リーフを寄越したって事はそういう意味なのかって思って」

「えっとね、お酒って果樹園でとれるくだもので作るんでしょ? なら必要なんじゃないかって思ったの。だってあるさん、お酒好きでしょ?」 

「そうよ、あたしとあいしゃは良かれと思って作ったのよ!」

 それぞれの村を担当していたシャイナとあいしゃ、そして果樹園を担当していたあやめの言い分はこうだった。

 う〜ん、新しい村にはいずれは必要だとは思っていたけど、今から住む人たちは村での生活に慣れるだけでも大変だろうから、そんな人たちが酒造りまで覚えるのなんてとても無理だろう。
 だから酒造所を作るにしても、それは果樹園や畑の管理にある程度なれてからだと思ってたのよね。

 それにエントの村はそもそも牧場を作ってるんだから、お酒を作ろうにも材料が無いじゃないの。
 まったく、考え無しなんだから。

「まぁいいわ。作ってしまったものは仕方が無いし、酒造り要員として城から職人を送る事にするわ。新しい村に来た人たちもお酒くらい飲むだろうし、ボウドアの村にあるのにエントの村に無いというのも軋轢を生む原因になるかも知れないからね」

 こうして何故かイングウェンザー産のお酒を作る場所だけが物凄く強化されるのだった。


 そんなこんながありながらも新しい村の施設は全て出来上がり、後は入村する人たちを受け入れるだけになった。
 それまでにかかった期間はなんと3ヶ月。
 そして同時にエントの村の牧場まで、その短期間で整備し終えてしまったのよね。

 いやぁ、ちょっとやりすぎたかしら。

 まぁ、やってしまったものは仕方ない。
 できたのだから素直に喜ぶ事にしましょう。

「ところでアルフィン様。この村の名前はどのようなものにするおつもりですか?」

 そんな事を考えていると、メルヴァからこんな話を振られたんだ。
 ああそう言えばそっか、村を作ったんだから名前は必要よね。

 始まりの村だからファーストの村? でもなぁ、それは流石にちょっと安易すぎるし・・・ファーストビレッジとかファーストハームレットだとちょっと長いわよねぇ。
 よし、ファーストビレッジを少し捩って。

「そうねぇ、ファビレッジの村なんてどう?」

「どのような意味の言葉なのですか?」

「始まりの村って意味の外国語をちょっといじった造語よ。なんとなく響きがいいでしょ?」

「はぁ」

 なんとなく安直だなぁなんて思われていそうだけど、この後自キャラたちに聞いて回っても特に反対意見は出なかったから決定。
 無事名前も決まった事で、この村の準備は全て整ったんだ。


「ええっ!? アルフィン様、もう準備が整ったんですか?」

「と言う事間もしや、その村の家は全てアルフィン姫様がクリエイトマジックでお作りになられたのでしょうか?」

「まさか。そんな事をしたらいくら私でも魔力切れで倒れてしまいます。村にある家は全て城の者たちが建材を作り、それを組み立てて作ったものですよ」

 取り合えず準備ができた事を近隣の領主であるカロッサさんに報告。
 何せエントの村に作っていた牧場も完成させてしまったから、城からどれくらいの家畜を移動させるかを話し合わないといけないし、なによりシャイナが無断で要らない施設まで作ってしまったからその報告もしないといけないからね。

「えっとその村には果物の木の移植も終わり、畑の造成も終わっていると。なんと! エントの村の牧場も平行して作業をしてもう開く事ができるのですか!? 確かもう少しかかると言うお話でしたよね?」

「ええ、思いの他皆が張り切ってしまったもので。私もこれには驚いているのですよ」

「それにボウドア同様、酒造所までエントに作っていただけたのですか!?」

 ギャリソンが渡したファビレッジの村とエントの村の現状が書かれた羊皮紙を見ながらカロッサさんとリュハネンさんは驚きの声をあげる。
 ああ、それは私の意思じゃないから。
 シャイナが勝手にやったことだから。

 でもまぁ、そんな事を言えるわけも無いので、ここは黙って笑っておいた。


 ■


 アルフィン様がお帰りになった後、私はアンドレアスと二人で話し合っていた。

「準備だけでも1年はかかると仰られていたのに・・・まさかこれ程の大工事をこの様な短期間で終えてしまわれるとは。アンドレアスよ、どう思う?」

「はい。やはり今回も城をお作りになられた時や短期間で30キロもの長い街道をお作りになられた時同様、神の国から数万人の兵を呼び寄せて作らせたのではないかと」

「やはりお前もそう思うか」

 アルフィン様が女神である以上、我々の想像を絶するほどの速さで工事をなしたとしても今更驚くような話ではない。
 きっと今回も前回同様、神界から神兵を呼び寄せたのだろう。
 だがアルフィン様は自らが神である事を御隠しになりたいようだから、我らはただ感謝し、その御意向に沿って行動するだけだ。

 この力技の工事を前にして、カロッサ家主従の勘違いは更に加速して行くのだった。


 ■


 イーノックカウにいる難民たちをファビレッジの村に移動させるための使者にはヨウコとサチコ、それにユミとトウコの4人編成チームである紅薔薇隊が選ばれた。

 でも実を言うと、最初は私自身が行くつもりだったのよね。
 ところがこれに反対したのがメルヴァとギャリソン。

「おやめください。女王自ら村民受け入れに赴くなど、聞いたこともありません」

「アルフィン様にはイングウェンザー城でお待ち頂き、全ての移住が終わってある程度村が動き出したころ、視察という名目で訪れるのがいいかと私は愚考いたします」

 私よりはるかに頭のいい二人にこのように言われてしまっては、我侭を通すわけにはいかない。
 そしてそれと同時に、私の自キャラたちも貴族と言う立場から行くべきじゃないって言われちゃったものだから、結局私は初めての自分の領地が開くその瞬間をこの目にする事ができなかったんだ。

 そして人々が入村してから10日後。

「皆がこのファビレッジの村に住まう事を許し、これより都市国家イングウェンザーの民となる事をここに宣言します」

 初めてボウドアの村に訪れた時と同じ恰好、同じ馬車でファビレッジを訪れた私は、予め用意されていた簡易玉座に移動。
 そこに座らされると一緒に来たメルヴァが私の左斜め前に立って羊皮紙を広げ、先ほどの通り宣言する。
 私はそれを見守った後、一言も発することなく村を後にする事になったんだ。

 ・・・初めての私の村なのに。

 まぁ、女王が村人と交流する国なんて聞いたこと無いから仕方ないと言えば仕方ないんだけどね。

「あっ、アルフィン様だぁ!」

「アルフィンさまだぁ!」

 でもちょっとだけ悲しかったからボウドアの村に寄ってもらい、ユーリアちゃんとエルマちゃん、そしてその他のボウドアの子供たちと触れ合って癒されるのだった。

 頑張ったんだもん、これくらいいいよね。
 なんて思ってたら、帰った後シャイナとまるんに怒られた。

「行くんだったら私たちにも声をかけてよ。<メッセージ/伝言>で連絡をもらえたらゲートで飛んで行ったのに!」

 はい、ごもっともです。


「えっと、このファビレッジの村、初代村長に任命されたエルシモ・アルシ・ボルティモです。私と村役場に務めている者たちは皆元冒険者ですがアルフィン様の元、都市国家イングウェンザー流の農作業を学ばせていただいたおかげでここにある果樹の世話や畑に植えるこの国の作物についての知識は一通り覚えていますから、解らない事があれば聞きにきてください。また、何か村の中で問題が起こった場合も自分たちで無理に解決しようとせず、村役場に報告をお願いします。我々が対処できるのなら我々が、それが無理と判断した場合は城から応援が来る事になっていますので。それでは皆さん、よろしくお願いします」

 ファビレッジの村の初代村長にはエルシモさんが就任し、収容していた元野盗たちの多くは一緒に村役場へ働きに出る事になった。

 これは収容所で長い間農業実験をしてもらっていたからうちの作物に詳しいし、何より元々バハルス帝国の住人なのだから、今回村に入った人たちを率いるのならうちのNPCたちより適任だと思ったらね。

 実際エルシモさんは野盗たちのリーダーをやっていただけあって統率力もあるし、意外と面倒見もいいから村長に向いてるんじゃないかな?
 そしてそれに伴ってカルロッテさんもファビレッジの村役場へと移動、村長夫人兼村の司祭として怪我人が出た時には癒しの力を使ってもらう事になった。

 あっと、ファビレッジの村に移動したのはカルロッテさんだけじゃないよ。
 村役場に就職した人たちの家族も一緒に移動、そして彼女たちはいずれ開く酒造所の管理運営をやってもらうつもりだ。
 当然うちの城から人を派遣してるから素人ばかりとは言え大きな失敗はしないだろうし、またこのおかげで思ったよりも早く皇帝陛下のご要望を聞けるようになるんじゃないかって思ってるんだ。


「わぁ、獣人だ! こんな所にセントールが!」

 その日、ファビレッジの入り口では人と馬が合わさったような獣人とそれにまたがる黒髪のハーフエルフがいきなり現れた為に、近くにいた者たちが驚き、大きな騒ぎが起こりそうになっていた。

 そしてセントール呼ばわりされた老ケンタウロスは、そんな騒ぎを一瞥するとこう吐き捨てる。

「まったく。間違えるでない。我等はケンタウロス、あやめ様に忠誠を誓うものじゃ。あのように恥ずかしげもなく言葉を解す存在を食べるような野蛮な者どもと一緒にされたくないわ」

「まぁまぁ、そうは言っても見たことがない人にとっては同じように見えるのですから仕方が無いですよ」

「ルリさんはそう仰いますが、わし等からするとあのようなものたちと一緒くたにされるのは我慢ならんのじゃ」

 年老いたケンタウロスは自分の背に乗る少女の言葉に、不満そうな態度でそんな言葉を返した。
 そしてそこに遅れて到着する3頭のケンタウロスと、その先頭を歩く金色の輝く長い髪をなびかせるケンタウロスの肩に乗って不満げに腕組みする小さな妖精。

「もう! 何勝手に先に行ってるのよ! あやめ様に言いつけるわよ」

「何を言ってるんですか、シルフィーさん。あなたが寄り道したせいでフェルディナントさんたち3人が巻き添えをくって遅れただけじゃないですか」

 顔を合わせた途端に始まる二人の言い争い。
 それはシルフィーのドロップキックがルリの額に炸裂した事をきっかけに、掴み合いの喧嘩に発展して行く。

「もう。また始まっちゃいましたよ。二人とも本当は仲いいのに、何故定期的にこんな争いをするのでしょうね」

「あれはあの二人にとってのコミュニケーションの一種なのだろう」

 そんな二人を見ながら白いケンタウレと黒いケンタウロスがそんな会話をしていると、村の奥から1人のメイド服の女性が大慌てで走ってきた。

「何事ですか! って、ケンタウロスさんたち!? そうか、もう到着したんですね。お待ちしておりました。私はイングウエンザー城所属のココミ・コレットと申します」

「これはご丁寧に。わしはチェストミールと申す。そしてこの金色のがフェルディナントでこの黒いのがテオドル、そして唯一のケンタウレがオフェリアじゃ」 

「チェストミール老、説明するにしても金色はないでしょ。失礼しました、私はフェルディナント。そして私を含むこの4人がケンタウロス4部族を代表する各族長です」

「テオドルだ」

「オフェリアです。よろしくお願いしますね」

 フェルディナントに続いて挨拶する二人のケンタウロス。
 そしてその挨拶が終わるのを見届けると、早速フェルディナントは今日ここに呼び出された理由をココミに問い掛けた。

「私たちはルリさんとシルフィー様に、あやめ様たちの国が新たな村を開いたので、それに伴う仕事があるから来るようにと言われて訪れたのですが、まだ詳しい話を聞いては居りません。我々は一体どのような事をすればいいのでしょうか?」

「えっ、ルリさんたち、なにも話さずに連れて来ちゃったんですか?」

 そう言って喧嘩をしている二人に目を向けるココミ。
 すると先ほどまで大騒ぎしていた二人は息のあった様子で同時に目を背けた。
 この様子からすると、ちゃんと自分たちの失敗を認識しているのだろう。

「まったく。あの二人は後でアルフィン様に叱っていただくとして」

「「なっ!?」」

「それでは、ここでの仕事について詳しい説明をさせていただきます」

 ケンタウロスたちにはこの村で取れた作物をボウドアに運ぶ際、その馬車の護衛を頼みたいと伝えた。

 その理由は人が護衛に付くと馬車に乗れば積荷をその分減らさなければならないし、徒歩で付いていけば移動速度が落ちてしまう。
 しかし馬と同等の速度で移動できるケンタウロスが護衛についてくれれば、馬車本来の速さで荷を運ぶ事ができるから頼んではどうかとアルフィンは考えたのだ。

「なるほど。ですがいいのですか? もし我々がそのボウドアの村とやらに行った場合、先ほどと同じ様な事が起こると思うのですが?」

「ああ、大丈夫です。ボウドアの村には都市国家イングウェンザーの館がありますし、それにその・・・かなり特殊な状況にある村なので」

 ココミは思う。
 グリフォンやオルトロスがいてその背にまたがり遊ぶ子供たちがいる村に、今更ケンタウロスたちがイングウェンザーの使いだと現れたからといって誰が驚くのだろうかと。

「そうなのですか。そちらに問題がないのであれば我らケンタウロスはあやめ様の、そして都市国家イングウェンザーの庇護下にあるのですからその仕事、我らが勤め上げる事を約束しましょう」

「ありがとう。そう言ってもらえると助かります」

 笑いながら握手をするココミとフェルディナント。
 しかしこの時のフェルディナントはまだ知らなかった。
 荷を運ぶ馬車を引くのが普通の馬ではなく、疲れを知らないアイアンホース・ゴーレムである事を。

 結果ケンタウロスたちは村と村の間を移動する際はほぼ毎回全力で走らされる事になり、最後には族長たち4人がそろって、

「お願いします。馬車は私たちが引くから、もう許して下さい」

 と、後日あやめに懇願する事になるのだった。


「此方が頼んだ事ではあるんですが、本当にいいんですか?」

「ええ。後方支援を任されるだけあって数字にも強いし、在庫管理もしっかりしてるもの。私としてはこんないい人材を紹介してもらえて、むしろ助かってるくらいよ」

 イーノックカウのアンテナショップ二階にあるベランダ席では私とライスターさん、そしてヨアキムさんの3人が、1階入り口横のレジカウンターで仕事をするユリウス・ティッカ君を見ながらお茶を飲んでいた。

 実は今、ティッカ君はセルニアの指導の下、このアンテナショップとレストランを行き来して色々な仕事を体験しながら経験を積んでいるんだ。
 と言うのも先日、私からある役目を告げられたからなのよね。

「確かに使える奴ですが、まさか帝都の支店長を任せていただけるなんて」

「ユリウスもまさかこれ程の好条件で雇ってもらえるなんて、夢にも思ってもなかったでしょうね」

 先日正式にうちで雇う事になったティッカ君なんだけど、面接したり実際に色々な仕事を任せてみたところ思いのほか優秀で、これならいっそどこかの部署を任せてみてもいいんじゃないかって話になったのよ。
 と言う訳で軽く話を振って見た所、雇ってもらったからには何でもやりますって返事が返ってきたものだから、冗談半分で、

「そうねぇ、なら帝都に今度出す甘味処の支店長、やってみる?」

「ええっ!? いいんですか?」

 って言ってみたら、こんな答えが帰って来たんだ。

 そこで大丈夫なの? って訊ねてみると、彼は戦場に立つのは怖くなったものの、辺境候に対しては私がライスターさんたちに語った話を聞いたおかげか、今では少しでも遠くに離れたいと思うほど怖がってはいないみたいだったなかったのよ。
 それならば本人もやる気になっているみたいだし、イーノックカウの店でしっかりと研修してもらった後にイングウェンザーの甘味処帝都支店の支店長をやってもらう事になったんだ。

「まだまだ教える事はあるし1人で任すには頼りないところはあるけど、帝都の店はまだ出店場所さえ決まっていないのだから時間は十分あるもの。その間にセルニアがしっかりと仕込んでくれるだろうし、もし開店までに間に合わなくても開店当初はうちの城から数人助っ人を送り込むつもりだから何の心配も要らないわよ」

「そこまでしてもらえるとは。ユリウスは果報者ですね」

 そう言いながら私たちは改めて働くティッカ君に目を向ける。
 実際に命のやり取りをする訳ではないけど、この国の文化の中心である帝都での出店なんだからそこはある意味戦場だ。
 私たちはその過酷な場所での戦いを、彼が無事に乗り切ってくれることを祈るのだった。


 そして更に月日は流れた。

 出店場所の手配や帝都の貴族に紹介と言う名の宣伝をしてくれたロクシーさんのおかげで、帝都のレストランや甘味処の出店は大成功。
 そしてその後も酒類の増産やエントの牧場で作られる食肉と乳製品の増産、それにファビレッジの果物の生産も軌道に乗って品切れの心配がなくなったおかげで店舗数が飛躍的に増えて来てるし、このペースなら本当にあと数年でバハルス帝国内全ての主要都市へ出店が実現してしまうだろう。

「まさかロクシー様が勝手に言い出した話が、本当に実現する事になるなんてねぇ」

「本当よね。出店場所の選定の為に今じゃこの国の隅から隅までうちの子たちが派遣されてるもの。おかげで私もゲートで飛べるところが増えたし、バハルス帝国内なら殆どの場所に一瞬に行けるようになったわ」

 私はイングウェンザー城の自室でシャイナとお茶を飲みながら、そんな話をしていた。

「そうよね。でもこの状況って帝国側からしたらある意味かなりの危機なんじゃない? だって今のアルフィンは、やろうと思えばどこにでも軍勢を送り込めるんでしょ。なら戦力もあるんだし、帝国を占拠してそれを足がかりに世界征服に乗り出そうなんて野望を持ったりしないの?」

「そんな訳ないじゃないの、めんどくさい」

 村が一箇所増えただけで仕事が凄く増えたのに、世界征服なんてとんでもないわよ。
 そんなの忙しくなるだけで、私には何のメリットも無いじゃない。

「それに辺境候がいるもの。いやよ、ガチ勢の戦闘系ギルドと戦うなんて」

「それもそうよね」

 そう言いながら笑いあう二人。

 確かに私たちはこの世界では最強の一角かもしれない。
 でもそんな力は別に要らないのよね。

 うちはマーチャントギルド、そしてその理念はこの世界に来た後も変わらないのよね。
 だからこそ商売をしてお金を稼いで、その金を使って楽しく暮らす。
 そんな人生を送るのが一番私たちらしいと思うんだ。

 そんな人生観の元となったもう一人の私、佐藤 祐樹はもうどこにもいないけど、その理念は私の意思とともにこの都市国家イングウェンザーという国の考えとしてこの城の子たちや新たに国民たちの中に残って行くと思う。

 そう、私たちにとって、この世界で最強である事なんて何の意味もなかったんだよね。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 最終回はボッチプレイヤーの冒険オールスター大集合でお送りしました。
 オリジナルキャラクターで名前が出てるキャラは殆ど出てきたんじゃないかな? まぁ、中には名前だけしか出て来なかった人もいるけど。

 3年以上続いたんですよね、この物語。
 ちゃんと完結できてよかったです。

 最後は出ているキャラクターたちが笑って終われる物語を目指したのですが、どうでしたでしょうか? またオーバーロードらしくないと言われてしまうかな?
 でも、ここまで読んでくださった方々には楽しんでもらえたんじゃないかと勝手に思っています。

 さて、とりあえずボッチプレイヤーの冒険の本編はこれで終わりです。
 ただ来週は休ませていただいて、もう一話だけ番外編のようなものをハーメルンにこの最終話をアップする日にあげたいと思ってます。
 その話はオーバーロードの二次とは言えないのでハーメルンにはアップしませんが、本来はこんな話も入るはずだったんだよって話なので読んでもらえたら嬉しいです。

 後、実は今日の正午から小説家になろうでオリジナル作品の連載を始めました。

 転生したのに0レベル 〜チートがもらえなかったので、のんびり暮らします〜

 テイスト的にはボッチプレイヤーの冒険に近いので、一度読んでもらえるとありがたいです。
 結構書き溜めてからの連載開始なので、しばらくは毎日更新しますから暇つぶしには最適ですよ。

 最後に、ボッチプレイヤーの冒険はこれで終わりますが、3年も書き続けた作品なのでなんとなくこれで終わりたくないんですよね。
 なので二週間後、また違った形でのボッチプレイヤーの冒険の話を始めるつもりです。
 これについては、番外編の後書きで。

 それでは皆様、3年以上の長い間、こんな駄作にお付き合いくださってありがとうございました。
 本当に感謝しています。
 そしてもしこれからも私の作品を読んでいただけたら、幸いです。


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